準決勝の第2試合は、劇的な逆転サヨナラで決着した。1回表に4本の長短打などで3点を先取した旭スポーツ少年団(新潟)が、そのまま優位に試合を進めて6回表を終えた時点で4対2とリード。しかし、その裏、長曽根ストロングス(大阪)が3本の長短打で5対4とひっくり返し、4年ぶり8回目のVに王手をかけた。
(写真=福地和男、鈴木秀樹、大久保克哉)
(文=鈴木秀樹)
■準決勝/エコスタ新潟
◇8月17日▽第2試合
[新潟]初出場
旭スポーツ少年団
300010=4
010013x=5
長曽根ストロングス
[大阪]3年ぶり18回目
【旭】吉田、小柳有-今井
【長】谷脇、森川-岩﨑
三塁打/今井(旭)
二塁打/小柳有(旭)、森川、畑中、月田2、岡林(長)、藤田七(旭)、岩﨑(長)
【評】旭スポ少は初回、三番・小柳有生の中越え二塁打と四番・今井咲太郎の右三塁打で先制すると、さらに吉田結晴が内野安打、藤田七音も左前打で続き、この回、3点を先取した。長曽根は2回、吉見憲眞(5年)の内野安打と四球などで一死一、三塁から、畑中零生がセンターに犠飛を放って1点を返したが、追加点は奪えず。3回に森川壱誠主将と苧原祐次郎が安打、4回には畑中が左越え二塁打を放つも、後続が倒れ、いずれも無得点。5回、旭スポ少は今井の適時打、長曽根は月田拓斗の右中間二塁打とDH・岡林優志(4年)の適時二塁打で、それぞれ1点を加えた。2対4で迎えた最終6回裏、長曽根は先頭の山田蒼(5年)が左前打で出塁すると、一死後に岩﨑海斗の左越え二塁打で1点を返し、さらに森川の四球で一、二塁。三番・月田が右中間を破る一打を放ち、これで岩﨑と森川がかえり、サヨナラ勝ちで接戦に終止符を打った。(了)
1回表、旭スポ少は3連打で2点、さらに敵失で二走・吉田が生還する(上)。長曽根は2回裏、畑中の中犠飛で三走・吉見が生還(下)して1点を返す
旭スポ少は5回表二死二塁から、今井の内野安打(上)で1点。その裏、長曽根は4年生の岡林が二死二塁から左中間へ二塁打(下)で1点
3回から力投してきた旭スポ少の小柳有(上)だが、6回裏につかまる。長曽根はまず、岩﨑の適時二塁打(下)で1点
6回裏、1点差に迫られてなお一死一、二塁のピンチで旭スポ少はタイム(上)。再開後、長曽根の月田が逆方向へ逆転サヨナラ打を放つ(下)
―Close-up Winner―
「魂、ですわ」(指揮官)
ながそね
長曽根ストロングス
[大阪]
試合後のスコアボードに残った数字が、過酷な試合内容を物語っていた。
「E」(失策)の下にある数字を見ると、長曽根ストロングスが「2」。対戦相手の旭スポーツ少年団_は「0」。
長曽根の最大の武器は、なんといっても鍛え抜かれた守備。対戦相手よりも多くの失策を記録する試合を見ることは、ほとんどない。それでも、この準決勝では初回に3点を献上。悪送球など、らしからぬミスも絡んでの重い失点が、最後までのしかかった。
「3回戦の不動(パイレーツ・東京)さんも、力でいったら、5、6点差で負けてもおかしくない相手でした。今日だってそう。新潟さんも強かった」
熊田耐樹監督の言葉にも、戦いの厳しさがにじむ。
「あんないいピッチャー(旭スポ少・小柳有生)が、最後まで、ええ球をほうってる。力では難しいですよ」
2回に犠飛を放った畑中零生は4回に二塁打(上)。6回表の守りでは一死三塁からのスクイズを、6-2の返球で阻んだ(下)
熊田監督が“小さな子が多く、力はない”と言い続けている、今年の長曽根。「(小柳有対策は)コンパクトに振って、つなぐ。それしかありませんわ」。最後の最後に、その言葉が現実のものとなった。
奇跡的にも思える結果。とはいえ、おそらく、偶然というわけではない。
「最後は、魂。気合ですわ」
熊田監督はそう言い切る。
「魂」──。抽象的に過ぎる言葉だが、選手たちも各自の感覚で、それを共有できているところが、長曽根の強さの一端なのだろう。
以下は、選手たちの試合後の言葉だ(=写真下㊤から順)。
「チャンスは何度でもある。諦めない。勝てる。みんなでそう繰り返しました」(森川壱誠主将)
「それまでチャンスで打てなかった。最後は絶対に打つ、打てる、と思って打席に入りました」(最終回に適時打の岩﨑海斗)
「初回に失点したけど、深呼吸して、落ち着いて投げ続けました。絶対に逆転してくれるから」(先発の谷脇蒼)
「詰まってもいい。最後まで振り抜いてやる、と思ってバットを振りました。速い球は慣れている。芯でとらえた感触がありました」(サヨナラ打の月田拓斗)
もはや「ミラクル」ではない。接戦を勝ち抜きながら、このチームは確実に力をつけている。
ここまで5試合、サク越えもランニングも、本塁打は1本もない。三塁打も、5年生の吉見憲眞が1回戦で放った2本のみ。それでも、つないで、走って、得点を重ねてきた。選手一人ひとりの身体能力は、これまで7度、日本一を勝ち取った先輩たちには及ばないかもしれないが、指揮官の言う「魂」を体現しているという意味では、どの先輩たちにも負けていないのだろう。
いよいよ、ファイナルの舞台へ。決勝の相手は「しょっちゅう連絡をくれて、兄弟のように慕ってくれている伊勢田(ファイターズ・京都)さん。勝っても負けても、正々堂々と戦うだけですわ」。そう言って、熊田監督は表情を緩めた。
―Bronze Medal of 45th―
地元の大声援も背に躍進。新潟チャンプの矜持
第3位
あさひ
旭スポーツ少年団
[新潟]
【戦いの軌跡】
2回戦〇4対2新家(大阪)
3回戦〇6対1東16丁目(北海道)
準々決〇9対3大龍(鹿児島)
準決勝●3対5伊勢田(京都)
手にしかけていた勝利が、するりと逃げていった。
悔しすぎる敗戦。それでも、準決勝を勝ち上がったときに涙を見せていた旭スポーツ少年団の高畑哲也監督は、比較的、穏やかな表情を浮かべていた。
「最後は完全に打たれました。ウチの小柳(有生)があそこまで打たれたのは、見たことがないんです。野手もよく守っていましたが、勝てなかった。やはり、長曽根さんは強かった」
初出場のチームを決勝まで導いた高畑監督は就任13年。イニング間には捕手の身支度を手伝う姿も
ここまでチームを引っ張ってきた塚田晄人主将も、同じ意味合いの言葉を口にした。
「6回表、ボクたちにも追加点のチャンスがありました。でも、取れませんでした(一死三塁からスクイズも、本塁憤死)。あれで向こうに流れを渡してしまった気もします。最後、向こうはつないできた。すごく強い、と思いました」
チームの指揮を執って13年という高畑監督は、試合中に厳しい言葉が飛び交う、長曽根ベンチの様子にも、感じるところがあった様子だ。
「言葉は厳しいですが、思いを持って子どもたちに接していることが分かります。私も練習のときは厳しく言うほうなので…」
塚田主将は5回、二盗を決めてから今井の内野安打で生還の好走塁(上)。六番・藤田七音は逆方向への巧打(下)が光った
今大会は開催地代表を含め、新潟県から4チームが出場した。開催地代表の3チームが次々と姿を消す中、県大会で優勝した、新潟代表の旭スポ少は着実に勝ち上がった。
「新潟のテッペンを取ったチームとして、恥ずかしくない試合をしなければ…。そう考えてはいました」と高畑監督。そして、快進撃を続けるチームを応援しようと、多くの地元チームがエコスタに駆けつけた。
「ありがたかったですね。たくさんの応援をしてもらった。あの声援の後押しが、初回に3点も取らせてくれたのかなと思います」
敵失も加わったとはいえ、初回には見事な連打による先制劇。そして、小柳有生が終盤まで見せた好投。チームの良さも出た試合だった。なにより、準々決勝に続いて失策ゼロ。厳しい戦いの中でも、しっかりと守備からリズムをつくっていた。
「大会では、ずっと練習してきたことが出せました。これまでの新潟県代表の最高位(3位)に並ぶことができた。後悔はありません」と塚田主将。「来年のチームには、もっと上に行ってほしい」
表彰式の後、銅メダルを胸に、応援席に向けってあいさつをする選手たちに、地元応援団から再び、大きな声援が飛んだ。